寺町は、いつもよりも深閑としていた。夜のうちに雪が降ったらしく、古い街は今年最初の雪景色になっていた。楠並木も、今日は暗い緑になっている。 俺の務める骨董屋、風琴堂もそんな景色に溶け込んでいた。蔵を改造した店には、古い牧ストーブが一つあるだ…
昼間、ランチの客がひと段落するのは、三時近く。最近、有難いのか迷惑なんだか、ネットで、この古い町にある、名前のない喫茶店を紹介してくれるお客がいて、そこそこに、僕は忙しい。店主である祖父に尋ねたところ、開店当初は名前があったらしいが、いま…
カクヨムさんにて、あなたの街のコンテスト、という素敵な応募がありました。 己の住まう場所の、古い時代に思いを寄せて、 「猪狩り」という作品を応募いたしました。 kakuyomu.jp
遠い山の中から出てきた青年は、灰色の空の下にいた。乾ききった風中には、昔に突き刺したような棒杭。真っ直ぐ西へ向かう道に、バスは走っているはずだ。足元に絡みつく冷たい風を、僅かな荷物が入った小さな背嚢で防ぐ。凍えた体を己の両手で抱き寄せて、…
山々が、黒い大きな生き物のように蹲って見える。今宵は仲秋のはずだが、まだ青灰色の空に月の姿は見えないでいる。風はもう夏の熱気を失い、開け放った車の窓からはざんざんと風が入り込み、伸びすぎた私の髪を散々にかき回す。浮かれた季節も仕事に追われ…
時々、タウン誌の表紙を描いてもらっている人の家は、大きな農家を改造してある。農家らしい趣は、茅葺の屋根と母屋の入口ぐらいで、やたらと重い引戸を開けると、黒光りする床板が張ってあり、よく言えば重厚な応接セットが置いてある。けれどもこの家に客…
来る10月23日。 九州限定配本、書籍版「片隅」発売です。 巻頭詩は、谷川俊太郎さん。挿画は新進気鋭の福岡出身、田中千智さんです。 菅野も、「銃眼」という作品を書いてます。 九州県外からも、通販をうけつけておりますので、どうぞ記事をお読みくだ…
肌寒さを感じる、良い季節です。夜長に、お楽しみいただければ幸いです。 m.kaji-ka.jp
連載二回目になります。 » 風琴堂覚書 瑠璃 弍 菅野 樹 WEB文芸誌 片隅-かたすみ- 伽鹿舎m.kaji-ka.jp
6/6 連載二回目になります。 よろしくお願いします。 http://m.kaji-ka.jp/daily/novel/1794
<a href="http://m.kaji-ka.jp/daily/novel/1794">風琴堂覚書 瑠璃 壱</a> よろしくお願いいたします。
【第7回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」novelcluster.hatenablog.jp 「花闇」お読みいただき、ありがとうございました。 今回は、未来。 難しいお題でございますが。 この素晴らしい世界 波の音が激しくなると、冷…
茫々たる薄野原の真ん中で、萩の花枝を幾本か右手に持った狩衣姿の男がいる。 歳の頃は、四十ほど。空に昇りゆく煌々と冴えた月を眺めている。 はて、紅葉狩りにと出かけてみたが、どうやら迷い子になってしまったらしい。 従者の姿も、何もない。 けれども…
三味線の糸が切れ、さっくり小指が切れてしまった。お幸は泣きそうな顔をして、血が滲む小指を口に含む。 あぁ、いやだ。くさくさする。もう、何日も、人と話していない、ご飯も食べていないような気がする。買い置いていた酒だけが、減っていく。このお江戸…
下町の紫陽花がそろそろ花を開こうとしている。 江戸の町にも、梅雨前のどんよりとした雲が広がり始めていた。 繁華な町でも、雨が降れば泥まみれになってしまうのが、難儀な点だった。 「お前さんに頼んでおくと、間違いないねぇ」 日本橋の、薬種屋太田屋…
色彩溢れる繁華な街を抜けると、小さな橋があり、それを渡れば灰色の古い町がある。とある古い店は、洋酒と洋モクしか売っていない奇妙な所で、店番は年中、白髪の長髪をバンダナで巻いたインディアンみたいな婆さん。そこに入るには、前に端整に座るジャー…